今回は『もののて』のストーリー毎に私の感想と注目ポイントを紹介したいと思います。ストーリーの分け方は私の分類によりますので、もしかすると皆さんとイメージと違うかもしれません。
本記事ではネタバレを含みます。
各ストーリー感想
もののて編 1巻(1話〜5話)
当初は、セクシー路線を主にしようとした努力が伺えます。それは、春画や入浴の描きかたから読み取れます。
人の手ってそんなに見ますかね。左と右手が逆になっていても、そう簡単には気づかない気がします。注意して見ないと、見たとしても気づかないですよ。私の回りには、左利きの者がいますが、初対面の人と食事してもまず気づかれていません。
山賊のお頭の薄ら寒さは、現代のビジネスマンを彷彿させます。あえてカタカナ用語を使うことで、周囲との差別化を図る狙い。手っ取り早く違いを表現できますが、その実、中身では違いを見出せません。でも、作品の時代(江戸)で、インセンティヴという言葉を知っている山賊は、かなりの博識ですよ!
平和になった時は、軍隊もそこまで必要ないので、忍びらの地位も小さくなります。忍びや武士にとって、世の中が混沌となれば相対的に地位が上がります。彼らは、平和とは相入れない存在ですね。
話す仏像は、最後までわからなかったです。周囲の反応を見ると、実際には話してはいないので、皆焼の一人芝居。でも、何の意味が?読み手に、もののての心情をわかりやすく表現する以上の意図はないように思えます。「あの人」もでてきませんでした!たぶん、あの人=母親でいいとは思うんですが。
錠前編 2〜3巻(6〜19話)
ステマによる、錠の販売が任務(笑)。錠によって、風呂やトイレの時も離れなれないという設定は、『ダブルアーツ』思い出しました。3巻で打ち切りっていうのも同じですし。
おこたのわがままさが爆発しています!自分から志願しながら、聞いていないと主張するのはイライラします。聞いてないと思いますよ、言ってないんだから。ただ、彼女は、ずっと蔵に閉じ込められ世間を知らないので、仕方がない部分があると思います。無知だからこそ、純粋に皆焼を愛せるのかもしれません。
彼女が医師になりたいと志す理由はしっかりしています。話し相手であるネズミちゃんを救ったことから、医学の神秘性に気づいたのです。ネズミは病気の源なので、私としては褒められる行為には感じませんが。
長雄がおこたに執着するのは、初めて自分を1人の人間として見てくれたからです。だから、彼女を独占し、自分に忠義を捧げるよう言っています。彼は、自分に自信がない。おこたの医学書を焼くことで、彼女の医師への夢も消えると考えたのでしょう。彼は、人を蹂躙することに慣れすぎ、窮鼠(下人)が猫(長雄)を噛む(に反抗する)ことを忘れています。
それにしても、長雄が実は小物だったのは残念です。もっと巨悪ならよかったのですが、小銭稼ぎしているだけの敵とは。序盤の山賊並みです。これに、1巻近い尺を使うことから、著者が敵の思想の重要性を深く考えていないことがわかります。
十兵衛、耳が逆さについています!これは、皆焼と同じ境遇の可能性があります。他にも足が左右逆になっている者や、胴体が前後逆になっている者、はたまた頭が前後逆になっている者も登場しそうですね。連載が続いていれば。
過去編 3巻(20話〜最終話)
おじいちゃんの喜びは、皆焼を育てること。オリジナルの皆焼は死んでも、おじいちゃんにとっては、誰であろうと同じなんでしょう。目が見えず、耳が聞こえない余生を過ごす上で、後世に何かを残したい気持ちがありました。自伝を書きたがる、その辺のご老体に似た部分があります。
で、ここからというところで終わります!皆焼とおこたをくっつけたのは、著者がどうしてもハッピーエンドにしたかったからです。3巻のあとがきがとても寂しい。本作品の今後の構想が描かれており、打ち切りで終わることになった著者の悲しみが漏れています。
最後に
打ち切りの原因は、絵によるセクシー路線から内容による本格派への転換でしょう。
例えるなら、グラビアアイドルとして成功した者が、ドラマ等の女優に転向する感じです。誰も、グラビアアイドルに演技を求めていません。若さと肉体だけで評価され、いずれは使い捨てられる宿命からの脱却は、周囲の望むところではないのです。
錠前編の途中から、セクシーな表現の頻度が一気に落ちます。過去編では、会話としてはありますが、これまでのような露骨な絵は描かれていません。セクシー路線で行くなら、全編同じようにいかなければファンは離れます。途中でシリアスに路線変更したとしても、週刊誌では新たなファンを獲得する時間はないですもの。
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ネタバレなし評価